岩井
「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」(※1)をアニメにしたいという話をいただいて驚きましたが、まずは観てみたいなと。個人的にアニメも大好きなので、どうなるだろうと。まったく違うものになるとしても、その違いを見たいような気がしたんですよ。自分なりに映像で一回着地しているものをまた作り直してもらうということで、逆に自由にやってくださいという気持ちでした。
大根
最初に川村(元気プロデューサー)氏から「リメイクしたい」と言われた瞬間、実写のリメイクかと思って「絶対無理」って応えたんですよ(笑)。ドラマの「打ち上げ花火~」は完成度が高過ぎて、リメイクなんてあり得ない。よくよく聞いたらアニメだったんですが、今度は「アニメの監督なんてできない」と応えて、「いや、監督やれって言ってるんじゃないですよ」っていうやりとりがあって(笑)。話を整理して聞くと、アニメでシャフトで新房昭之監督でということで、また新しいものができるかもしれないな、と。難しい作業になるだろうなとは思いましたが、ワクワクした記憶がありますね。あと、やらなきゃいけない事情があったというか、ドラマの「モテキ」(※2)で岩井さんに無断で「打ち上げ花火~」のパロディを作ってしまって(笑)。それは愛情ゆえの行動だったんですが、その恩義というか、お詫びというか。
この案件に関しては、何も言えないっていう(笑)。
新房
僕も話を聞いて、びっくりしましたけどね。“「打ち上げ花火〜」って実写じゃないの?”っていう。作品に関して知ってはいたんですが、今回の話をいただいてから改めてちゃんと観たんですよ。これをどういう風にアニメにするんだろう、と。そのままもできるし、設定を使って違う話を作ることもできる。いろんなやり方があるから、どういう風に作ったらいいのか、どういう風にやって欲しいのか、いろいろ考えました。ただ、シャフトは新しいことがあったらとりあえず挑戦してみようという気持ちがもともと強いので、やりましょうという感じでしたね。そこに迷いはなかったです。
©ROCKWELL EYES INC.
(※1)「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」
1993年8月26日に「if もしも」(フジテレビ系)の一篇として放送された、岩井俊二の監督・原作・脚本によるドラマ。花火大会の日、同級生のなずなから、プールの50m勝負で勝ったほうと駆け落ちすると持ち掛けられた小学生の典道と祐介は……。TVドラマ初の日本映画監督協会新人賞を受賞し、95年8月12日には再編集のもと劇場版が公開された。
©「モテキ」久保ミツロウ/講談社
©「モテキ」製作委員会
(※2)「モテキ」
突然“モテキ”が訪れた草食系ヘタレ男子・幸世を主人公とした、久保ミツロウの同名コミックのドラマ化。2010年7~10月までテレビ東京系で放送。大根仁が脚本・監督を務めた。満島ひかりがヒロインとなる第2話「深夜高速~上に乗るか 下に寝るか~」で、「打ち上げ花火~」のロケ地を巡る話をオリジナルそのままのアングルやカット割りで描いている。翌2011年にはドラマの物語のその後を描いた劇場版が公開された。
岩井
大根さんはまさに「打ち上げ花火〜」のパロディの印象ですよね。「モテキ」のドラマを見たうちのスタッフが「これ大丈夫でしょうか!?」って言ってきて拝見したんですが、ちょっと衝撃というか。ここまでなぞれるんだと思ってびっくりしました。しかもオリジナルのドラマの中でアングルから何までが再現されてるっていう見たことのない演出で、その極め方がすごいなと逆に感動してしまいまして。それからはいちファンです(笑)。新房さんはやっぱり「魔法少女まどか☆マギカ」(※3)が衝撃でしたね。特にクライマックスの衝撃に関しては、「もしも」が「まどか☆マギカ」的な感じになるとこうなるのかなと勝手につないで想像したりもして。もともと「さよなら絶望先生」(※4)とか久米田(康治)作品(※5)も好きなので、意外と笑いのセンス的なところも3人通底するものがある気がしてますね。
大根
9月に『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』(※6)という僕の映画が公開されるんですが、それこそ「打ち上げ花火~」と出会った20代の頃は、“岩井俊二になりたいボーイ”だったんですよ(笑)。それくらい影響を受けたし、作品を通じて学んだ部分も大きいですね。新房さんに関しては、僕もやっぱり「まどか☆マギカ」ですね。いろんなシャフトの作品を観てますが2011年の震災の頃に世の中の状況とシンクロするような形でああいう作品が出てきて、アニメという表現そのものが持つ時代と呼応している感じがすごいなというか。その新房さん、シャフトと作るということで非常に興奮しながら脚本を書きましたね。アニメは実写とは違うアニメならではの表現が絶対あるはずだと思っているんですが、新房さんとシャフトでやるということは、だいたいこんな線なんじゃないかというイメージを飛び越えて、想像以上のものを見せてくれるんじゃないかというふうに思いました。
新房
岩井さんの作品はやっぱりビジュアルが素晴らしいので、まずはそれをアニメにするというのは恐れ多いなというか。技術が進化して実写でいろんなことができるようになってきて、アニメの立場がどんどん弱くなっていってるんじゃないかなと常々思っていたんですよ。そこでアニメの必要性とは何だろうということを考え始めた頃、岩井さんの作品をアニメとして再構築するという話をいただいて。これはやり甲斐のあるものになるんじゃないかなと思いました。大根さんは、この前たまたまCM(※7)を見たんですよ。女性が横になっていて、“エロイな、なんだこれ?”って愕然として。そうしたら大根さんの名前が出てきて、“やっぱりか!”って(笑)。
大根
女優をエロく撮るヤツだという認識ですかね!?ありがとうございます(笑)。
©Magica Quartet/Aniplex・
Madoka Partners・MBS
(※3)「魔法少女まどか☆マギカ」
新房昭之監督・シャフト制作によるアニメ作品。2011年1~5月までMBS毎日放送ほかで全12話で放送。願い事の代償として“魔法少女”となり、戦いに身を投じる少女たちの運命を描く。過酷な描写や斬新な演出、衝撃のラストで話題を集め、12~13年に掛けて総集編と完全新作による劇場版3編も公開。シリーズ合計で興行収入30億を超える社会現象に。
©久米田康治・講談社/
さよなら絶望先生製作委員会
(※4)「さよなら絶望先生」
2005年から2012年まで『週刊少年マガジン』にて連載された久米田康治の漫画作品。何事もネガティブに取り、すぐに「絶望した」と口にする教師・糸色望と生徒たちの騒動を描く。新房昭之監督・シャフト制作で、07年~09年に三期でTVアニメシリーズ化された。
(※5)「久米田康治」
漫画家。1967年生まれ。90年、「行け!!南国アイスホッケー部」が小学館新人コミック大賞を受賞して漫画家デビュー。シニカルな笑いや風刺を得意とする。代表作のひとつであるブラックコメディ「かってに改蔵」も新房昭之総監督・シャフト制作でOVA化されている。
©2017「民生ボーイと狂わせガール」製作委員会
(※6)『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』
渋谷直角のコミックを映画化。奥田民生に憧れる35歳の雑誌編集者が、ファッションプレスの魔性の女にひと目惚れして展開されるラブコメディ。9月16日(土)全国東宝系公開。
(※7)「CM」
大根仁が、2016年秋にハリウッドでオーディションに挑戦した水原希子にスマートフォンを用いて密着して作った外国語教室NOVAのCM。同社が展開するドキュメンタリープロジェクト『Borderless』の一環で、7篇のCMと長尺のドキュメンタリーが公開された。
大根
もう3年くらい前なんですが、2週間に1回くらい定期的にこの3人と川村氏を含めたメンバー7、8人でシャフトに集まって、アイデアを出すという会議を半年くらいやったんですよ。もともと45分のオリジナルの作品を倍以上の映画の尺にするにはどんなネタが必要かみんなでアイデアを出し合って、脚本担当の僕はそれを書生のようにずっとメモして。それがだいたい1時間半くらいで終わって、あとは毎回、居酒屋に飲みに行ってたんですが、むしろそっちのほうが長い感じでしたね(笑)。でもその中で時折ネタが出てきたり、突然誰かが何か思い付いたり。そこで僕がレモンサワーを置いてまたメモるみたいなことが繰り返されて(笑)、ちょっとずつ進んでいった感じですかね。
岩井
できる限り、皆さんに自由な発想で作ってもらえたらって思っていたんですが、一点、原作側として気になっていたのが“ストーリー(時間)が戻る”という点。もともと「if もしも」(※8)というTVドラマの作品で、そのルール上で物語が展開するというお約束があったので、のちに劇場公開されたときに「なぜ戻ったのか分からない」という声が結構ありまして。そこを単体で切り出すときに何もせずいくのか、何か分かるルールみたいなものはあったほうがいいのか。今回の長編アニメ化にあたって、最後にバグとして残ると申し訳ない気がして、一番基礎になる“if”の取り扱いはどうしましょうという投げ掛けはさせてもらいました。
大根
僕はもうオリジナルが好き過ぎて何回観てるか分わからないくらいで、たぶん岩井さんより観てると思うんですが(笑)、オリジナルの中で一番の謎なのが、なずなが突然、駅で帰ると言い出すところなんですよね。あれ、“超展開”じゃないですか。あそこを起点に、もし電車に乗れたらどうなっていたのかっていうようなことを考えて、そこから(オリジナルドラマの尺の)45分より先の物語が出来上がっていったような気がします。いろんなアイデアが出た会議でしたね。
新房
僕は何も出してないですよ。もう覚えてないんですけどね(笑)。とにかくふたりの話が面白かったので、それを聞いて、あぁなるほどと(笑)。
大根
そんなことはないですよ(笑)。あと、岩井さんが原作を考えられたのは学生の頃ですよね。本当はこうしたかったんだみたいな話を聞いて、すげぇなって。それがそのまま形にならずに、ドラマの「打ち上げ花火〜」の形になって良かったなって(笑)。僕は「打ち上げ花火〜」っていうドラマは『小さな恋のメロディ』(※9)であり、『スタンド・バイ・ミー』(※10)だと思っていたんですが、岩井さんはもっと「銀河鉄道の夜」(※11)みたいな話にしたかった、と。そこもヒントになりましたね。そうか、やっぱり電車なのかっていう。
(※8)「if もしも」
1993年4~9月までフジテレビ系で放送されていたオムニバスドラマ。「結婚するなら金持ちの女かなじみの女か」(第1話)など、人生の選択の分岐点をテーマに2つのラストの物語を描く。
(※9)『小さな恋のメロディ』
1971年公開の英国映画。11歳のダニエル(マーク・レスター)とメロディ(トレイシー・ハイド)の恋物語で、アラン・パーカー監督の処女作。駆け落ち、線路がモチーフに使われている。
(※10)『スタンド・バイ・ミー』
“死体探し”の旅に出た少年たちのひと夏の冒険と成長を描いた、1986年公開の米国映画。スティーブン・キングの原作をロブ・ライナーが監督。ドラマ「打ち上げ花火~」の典道役・山崎裕太は、1997年の舞台版「スタンド・バイ・ミー」で、リバー・フェニックスが扮したクリス役を演じている。
(※11)「銀河鉄道の夜」
詩人・童話作家の宮沢賢治の代表作。少年たちの銀河鉄道の旅を描く。「銀河鉄道の夜」が「打ち上げ花火~」のモチーフになっていて、作品の構成においても影響を受けていることは、岩井俊二によるドキュメンタリー「少年たちは花火を横から見たかった」(99)でも言及されている。
新房
原作で小学生だった設定を中学生に変更したのは、アニメ的に小学生を描くのは難しいんじゃないかという話をさせてもらいました。子供っぽくなり過ぎてしまう危険があって。
大根
それと、なずなの衣裳は制服のほうがいいだろうという話も出てきましたよね。ただ、男の子に関しては小学校高学年から中学生というのはそんなに変わらないんですよ。中1なんてまだまだ小学生じゃないですか(笑)。そこは原作から設定を変えても、大きなところは変えずに済むかなというところでしたね。
岩井
漠然とですが、新しく作り直すならそっちのほうがいいというか、小学生というフェーズと中学生というフェーズでは景色が少し違うと思うので、そういう意味でリフレッシュして観られるんじゃないかという気はしましたね。あまりなぞっているような感じに見えないほうがいいのかなと思ったので。ただ、やっぱり不思議な感じがしますね。実写とアニメは思っていた以上に違うと自分の中で感じている中で、どこかで聞いたことのある台詞が聞こえてきて(笑)。そこは楽しくもありますね。あまりないんじゃないですか?実写がアニメになるって。それを自分の事として体験できるって、なかなかないので。
新房
台詞ということでは、大根さんの脚本は、アニメの台詞だとものすごくわざとらしかったりするところが、すごくストレートにナチュラルに入ってくる。一稿目を読んだ段階で、今回目指すところはこういうことなんだなって思いましたね。すごく新鮮で、腑に落ちた感じがしました。
大根
台詞回し的な部分で言えば、実写とアニメは違うというのは大前提であるんですが、これだけアニメの映像やギミックが進化している中で、僭越ながらアニメ的な台詞にはどこか限界を感じている部分があって。もうちょっとナチュラルなトーンで話したり、あいまいなところがあったり、ここ要らないんじゃないのみたいなやりとりが挟まっていてもいいんじゃないか、と。ドラマでいうアドリブ的な台詞ですよね。たぶんそこは実写がアニメに勝る部分だと思うんです。偶然生まれてきてしまうようなもの。そこは台詞を書きながら意識した部分ではありますね。そもそもナチュラルなトーンの会話というのは、オリジナルにも十分あるというか、いかに自然にしゃべるかというのはむしろ僕自身が岩井さんから一番影響を受けた部分だと思います。
新房
アングルやカット割でも、原作をなぞっている部分はあります。スタッフの中にも相当ファンが多いので、自分の知らないところでセリフの間まで測っていたり。原作がすごく好きなスタッフが集まって作っているんですよね。僕自身もまた挑戦として楽しみながらやらせてもらってますが、これが新しいジュブナイルもののひとつの定番みたいになったらいいなと思っています。たとえば、「時をかける少女」(※12)とか、何回もリメイクされているじゃないですか。やっているうちに、「打ち上げ花火~」もそういう風になったらいいんじゃないかなという感覚になってきました。それこそ繰り返して、永遠に続いていくような感じになったら面白いなと。
大根
僕の場合、無断のパクリを含めれば「打ち上げ花火~」のリメイクは今回2回目になるんですが、次もまたあり得るかもしれないですね(笑)。
(※12)「時をかける少女」
SF作家・筒井康隆が1965年に発表したジュブナイル作品。時間移動の能力を身につけてしまった少女・和子の不思議な体験を描く。アニメーション含め4度の映画化、続編含め6度のTVドラマ化がされていて、その時々の若手女優の登竜門的な作品ともなっている。